特撮ロケ地とその周辺

東映特撮の撮影協力をひたすらチェックするブログです。ロケ地近辺の話もたまには。

90年代のアトピー脱ステを知らない若者たちへ

アトピー性皮膚炎の治療には、時代ごとに流行のような波があった。

 

1990年代、日本では「脱ステロイド」という言葉が広まった。アトピー性皮膚炎に対して、外用のステロイド治療をやめてしまうというものだ。

薬をやめて、体を『素』に戻す。自然に任せる。そんな響きに、自由や希望を見た人も少なくなかった。

温泉に浸かり、皮膚をじっくり休ませる試みもあった。

いまでも地方の温泉街を歩けば、その時代の名残を見つけられるかもしれない。

 

ただ、科学的に言えば、その根拠は弱いものだった。

報告は小さな観察研究や体験談が中心で(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29221588/)、大規模に検証されたものは少なかった。治療の効果判定、つまり「何をもって『効いた』と判断するか」の基準もばらばらであり、ほぼ主観による感想と相違ない文献、ステロイド治療の有無を明記しないも論文まである。もちろんランダム化された介入研究は皆無だ。

総合的に、あくまで標準が効きにくい場合の補助的な治療と位置付けられる(https://ijponline.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13052-021-00971-3)(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7563194/)。

 

一方で、ステロイド外用薬を正しく使ったときの効果と安全性は、多くの研究で積み重ねられてきた。

だから今のガイドラインは「まずステロイドを基本に、スキンケアや生活改善を組み合わせる」としている。(欧州https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jdv.14891)(日本 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893025000085?via%3Dihub,  https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/ADGL2021.pdf

 

じゃあ温泉療法はまったく意味がないのかというと、そう単純でもない。

根本的な治療にはならなくても、リラックスできて、かゆみがやわらぐと感じる人もいる。

生活の工夫やセルフケアが気持ちを支えてくれることもある、ただし「標準治療の代わりになる」とはまだ言えない――それが現時点の結論だ。特に強酸性の温泉は、皮膚炎を増悪させる可能性もある。

 

一方で、局所ステロイド依存/離脱症候群については、質の高い研究に基づく診断基準や治療法が確立されているわけではない(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8481181/)(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11994697/)。

つまり現段階では親が独断で子供のステロイド治療をやめてしまう、というような判断は合理的とは言えない。1990年代の悲劇を繰り返してはならない。

 

医療を信じきれない気持ちは自然だと思う。

薬を続けることへの不安も理解できる。

そこまで考えの及ぶ人たちは、きっと今の大人たちよりも知的で繊細なのだろう。

現行の医療なんてたいして世の中を良くしていない、社会のお荷物だ。激務にうっとりして労働環境や体制すら改善する体力も残っていない医療者は金融資本主義の負け犬である。なのに生活できる程度の給料をもらっているなんて何事だ。医療費の7-9割も元は税金であり、なのに受診すれば窓口でそう安くない支払いを求められる。NICUや産科の閉鎖は、高齢者への無駄な処方や延命治療をやめていれば防げたことでありすべて医療者の自業自得だ。おそらく一般的な世論はこういったところなのだろう。1990年代以降に医療に関わろうとする時点で詰み、それを理解しないまたは理解したうえで覚悟した人間どもが働く、それは不安になって当たり前だ。

 

でも、積み重ねられた研究の厚みを知ると、少しは安心できるかもしれない。

標準治療を受けたうえで、自分に合う無害な工夫をほどよく組み合わせる――そのくらいの距離感が、今の時代の「ちょうどいい」向き合い方なのかもしれない。

 

(この記事を書いているのは外科専門医、救急科専門医であり、皮膚科やアレルギー、小児の専門ではありません。ちゃんとした先生のちゃんとした文章も読んでもらえると嬉しいです)